02年の春、河川敷の橋の下に子育て中の母親猫が2匹の子猫と共に捨てられた。橋ゲタに小屋を構えていたホームレスの男性は怯えてお腹をすかせた親子猫をとても気の毒に思い、手にしていた僅かばかりの食パンを与えたのが始まりだった。男性は母猫を「シロ」と 呼び、生まれつき全盲だった子に「ミエコ(♀)」、左目の不自由な子には「クロ」と名付けた。ミエコという名には「目が見えるように」という願いが込められている。 初老の男性( Tさん)は細かなことは気にしない楽天的かつ頑固な性格で話し好きな方でもあった。シロ達の食べ物は近隣の弁当屋さんがカンパしてくれる惣菜などで賄われていた。特にミエコは全盲だったために周囲のホームレス仲間からもそれとなく気にかけて見守られていた。
07年9月6日、関東地方に直撃した台風9号の影響により、河川が氾濫して河川敷では夕方から夜にかけて増水した濁流が徐々に水かさを増していった。翌7日、午前には水位が約8m 上がり、河川敷のあらゆる物が次々と泥水の中に姿を消していく。ミエコ達と暮らす Tさんは避難する間もなく一気に小屋ごと流されていった。
「猫を連れたおじさんは流される小屋の上に乗って助けを求めていたが、バランスを崩して水没し、そのまま姿が見えなくなった。」 (消防隊員の話) 幸いにもクロ(♀・5歳)は難を逃れたが、ミエコとシロは Tさんといっしょに濁流に消え、再び戻ってくることはなかった。その後のクロは被災当時に隣の小屋に住んでいた Aさんによって引き継いで飼われていたが、10年8月に8歳で病死。
平成猫バカ列伝 総集編
(株)どうぶつ出版 2008.7.29