ハナタ(♂)と初めて会ったのは02年10月の暑い日の午後だった。川原で同居している年配の男性と高齢のおばあさんが面倒をみていた。おばあさんの話によると捨てられた猫がかわいそうで飼っていたら、いつの間にか10匹になったそうだ。ところが、付近を往来する人の中にはこっそりと盗んで行く人がいて、とうとうハナタ 1匹になってしまったと言う。なるほど、物品もそうだが猫が盗まれるという話は河川敷では珍しくない。そんな訳でハナタは日中の明るいうちはピンク色の紐に繋がれていた。
 当時まだ 1歳に満たないくらいであったが、ハナタには月齢に不似合いな落ち着きがあり、不思議な雰囲気を漂わせた猫であった。以来、機会あるごとに通っていたが、しばらくしておばあさんが姿を消した。体調を崩し病院か施設に入ったらしいのだが、周囲の人はその事をあまり話したくない様子だった。

 03年が明けしばらくすると男性もいなくなってしまった。そのままの小屋には別の男性が住んでいて、やはりハナタをかわいがっていた。以前住んでいた人とは何の関係もないらしいのだが・・・この男性は Fさんといい、他の仲間と拾い集めたマンガの単行本を売っては生活をし、明るく威勢のいい人だった。ハナタの周辺でも猫を捨てる人が後を絶たない。生後4ヵ月の茶トラ(チビ・♀)が迷い込みハナタと同居することになった。
 ある日、チビがおしっこをしようと腰を落とした時の事、すぐさまハナタが首を咥えて男性が用意している「砂の箱」の所に連れて行った。ハナタはチビにトイレの場所を教えたのだ。
 その後も生後2ヵ月(♀)の子猫が迷い込み、サクラと名付けられた。しかしチビもサクラも病死してしまった後、新たに捨てられた黒い子犬(♂)が懐いてきた。ハナタはチャーと名付けられた子犬と同居することとなり、いつも仲良く遊ぶ日々であった。チャーはこの場所に1年は居ただろうか。ある日の夕方、男性が散歩に連れ出した際にリードが外れてしまったのを機に逃げ出し、行方不明になってしまったと聞く。

 06年夏、男性は脳溢血で亡くなった。2人の仲間も離れた場所に移り、ハナタの居た小屋にはまたもや別の男性が住み着いた。男は以前から飼っていた黒猫のクロ(♂)を連れていたのだった。しかし、そのうちに周囲の複数のホームレス仲間がハナタりことをずっと手厚く見守ってきたこともあり、クロ同様にお世話を続けるようになった。ハナタは明るいうちの殆どの時間はそばにあるコンクリート製の土手に登り、ゆっくりとやり過ごすのが日課だった。そこは朝から夕方まで随分の数の通行人が行きかう所で、大勢の猫好きの人から撫でられたり餌をもらったりして、地域猫同様に多くの人の愛情を受けて生きてきた。また、近くに居るココ(♀)との仲がすこぶる良く、いつも連れ立って歩いていたものだった。
 そして、08年6月中旬、ハナタが突然姿を消した ! !多くの人に見守られた猫なので周辺のホームレスさんも心配して捜索したり、近隣の迷い猫の情報にも気持ちを尖らせていた。また、普段の散歩などで土手を通りがかっていた多くの方からもハナタの行方を案ずる声を耳にした。

 09年6月、ある男性からの情報で河川敷のとある場所に足を運ぶことになったのです。なんと、そこにハナタの姿があったのです。実は「08年6月にハナタをさらって行った。」と某動物愛護団体の主催者が直接その情報をくれた男性に話したことから発覚したのです。勿論、愛護団体の主催者はハナタという名前があることは知るはずもありませんが、複数のホームレスさんが地域猫と同様に温かく見守って飼い続け、朝夕に川原の土手を行きかう人々にとってもある種アイドル猫的な存在であったハナタを誰に声をかけることもなく盗んで連れ去るような筋道の外れた行為には憤りを感じました。ホームレスさんが猫を飼ってはいけない理由はありません。言うまでもなくハナタは正当な理由があって保護されたはずはなく、その主催者の知人の所(河川敷)で餌だけもらって野放しになっていたのです。




NHK BS-2 ペット相談
ペットなび「多摩川の猫を撮る」

放映 08年5月13日
アンコール 08年9月16日




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