(オヤビンの足跡)

 ある日、河川敷のホームレスの老人( Fさん )の所に迷い込んできた子猫。充分に人馴れしているので明らかに捨てられたもの。生後約4ヵ月の子猫は老人にまとわりつき、傷みかけた魚の干物や残飯をもらって居ついていた。老人は以前にも猫を飼っていた経験があるので子猫を容易に受け入れ、我がもの顔ではしゃぐ子猫に「オヤビン」と名付けた。

 オヤビンは遊び盛り、立ち寄る人に遊びを要求したり、人の肩に突然よじ登ったりと「食う・寝る・遊ぶ」を満喫。まさに我がまま「親分」だった。Fさんは約1年前まで「アカ」という名の猫を飼っていたことがある。アカは悲惨な死を遂げた猫だったので「かわいそうだから、もう猫は飼わない。」と言ってはいたが、困った顔をしているオヤビンに出会って気持ちが変わったのだろう。オヤビンのことを心底かわいがっていた。拾い集めてきた魚や揚げ物に火をとおしものに残飯を混ぜたものを毎日少しずつ食べる、1人と1匹のいつもの食事だった。
 そして、ここに来て約1ヶ月が経とうとしていた真夏の炎天下の日、オヤビンがいなくなった。その後、Fさんは何日も捜し歩いたが2度とオヤビンに会うことは叶わなかった。河川敷では日々いろいろな事が起こる。物品や子犬、子猫などの盗難も日常茶飯事とも言える。また、マナーを守り犬を散歩させている飼い主がいる反面、リードをはずし猫などを追わせてほくそ笑む悪質な輩がとても多いのも事実で、猫が噛み殺されてしまう事も珍しくないのである。





TOKYO PET CLUB
07年10月号
にゃんこ ステーション

多摩川の猫たちを見守って十数年
「すべての猫たちに生き抜いてほしい」

文・川嶋 陽子



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