(チロの足跡)

 河川敷で生まれた5匹の兄弟。ホームレスの男性が飼っているウサギ小屋のそばで産み落とされた。母猫は子育ても熱心で人馴れしていたので、常連の釣り人や薬草を採りに来る年配の女性などに温かく見守られていた。しかし、母猫に与えられる食糧はいつもほんの一握りのドライフード。拾い集められた腐敗間近の弁当、古くなった食パン、不衛生な水。そんな食生活が続いていたために母猫は激しい下痢などで体調を崩し動けなくなってしまった。見かねた年配の女性が病院に運び、そのまま入院治療を続けているうちに母猫の里親さんが見つかった。とり残された生後2ヶ月の子猫達は無邪気に遊ぶこともあったが、そのうちウィルス感染症などにより伝染性貧血症になりすっかり生気を失ってしまい次々と死んでいき、キジトラのチロだけが生き残った。母乳からの免疫力も絶たれた事と栄養失調や不衛生な環境が原因だったのだろう。

(生後一ヶ月の兄弟)

 一人ぼっちのチロは不充分で不衛生な環境にも関わらず、くったくのない愛嬌を来る人に振りまいた。釣り人が来ると1日中そばで 待っていて小魚をもらっては食べ、夜はホームレスの男性の小屋の中の棚の上で眠っていた。
 そんな物言えぬチロの体にも様々な負担が蓄積していたようで、しだいに覇気がなくなり、ある日姿を消してしまった。くしくもチロ兄 弟が産まれたウサギ小屋のそばで亡骸が発見された。多摩川で産まれた子猫はその殆どが健康に育つことはない。母猫は不妊手 術をされないまま捨てられた。生を受けた5つの命は無残にも消えた。遺棄した人の罪は重い。


小西 修 写真展
『多摩川の猫 - 河川敷に生きる面貌』
07年6月30日〜7月16日
東京・立川 オリオン書房・ラウンジギャラリー



Copyright(C)2002 osamu konishi All right reserved